ルーマニアへ行く



―ルーマニアでの活動はいつからなんですか?

 「ルーマニアで活動するようになったのは、五年前に指揮者コンクールを受けて入賞したことがきっかけです。一度そのご褒美で客演の指揮者として行ったんです。
 シビウという町でコンサートをしている時の事なんですが『隣町で指揮者がキャンセルしたから、代わりに行って指揮してくれないか』と言われたんです。ところが、その代役のコンサートの日は、私の演奏会の次の日なんですよ。練習が無い。『ゲネプロ、本番』というやつですよ。
 それでは困ると言ったんですけれど、マネージャーが『とにかくお前の演奏は良かった。取りあえずチャレンジしても良いじゃないか。少数民族のハンガリー人の町で、コンサートホールも綺麗だし、オーケストラはほとんどハンガリー系で面白いぞ』とかなんとか言われて、じゃあ行ってみようか、ということで、次の日マネージャーの車で4時間かけて行ってその日の内に演奏会をやった。」

―曲目は何だったんですか?
 「曲目は、オール・モーツァルト。それで、その時の休憩時間に、そのオーケストラの音楽監督が僕の所に来ましてね。またアメリカの時と同じような話なんですけれど『お前の指揮を見ていたら良かったと。常任指揮者にならないか』って言うんですよ。そんな簡単に言われても(笑)。 はい承知しました、とも言えませんから、とりあえず『お話は分かりました。返答はファックスで送ります。僕も予定がありますから』というふうに答えておいたんですが、結局イエスと返事したんです。  結論的に言えば、欧米の場合は、人からの紹介とか、世間の評価で決めるのではなくて、全て責任者が自分の目で見て、良かったか、そうでなかったか、ということだけで判断するんですね。」



(「ストリング」8月号/レッスンの友社 より抜粋)