朝日新聞週間情報誌
あいあいAI京都より

2005年8月24日



 きょうと人(びと)第255号

筑前琵琶奏者 片山旭星さん(50)


ほっとする波のような音

  「波のように美しい音楽だ」昨年のフランス公演で、現地のピアニストは彼の音をそうたたえたという。
 ピアノ、ギター、尺八・・・。幼い頃から、興味が赴くままに様々な楽器に親しんできた。22歳で「音色が面白そうだったから」と琵琶を始めた。以後、人間国宝(筑前琵琶)の山崎旭萃やその門下の師匠、肥後座頭琵琶の山鹿良之に師事し、研鑽(けんさん)を積んできた。大学卒業後すぐ、サラリーマンをした時期もあったが、「とにかく自分の時間がとれなくて。本が読めない、音楽が聴けない、テレビが見られない。だんだんバカになっていくような気がして」と3年で退職。建設現場やガラス工場、植木屋などのアルバイトで生計をたて、琵琶の修業を続けた。
 「最後の琵琶法師」と言われた山鹿良之さんの門をたたいたのは36歳のとき。門付(かどつ)け芸で磨いた師匠の歌声は力強く、心を揺さぶるものがあった。「とにかく衝撃的だったんです」。師匠が96歳で亡くなるまでの実質4年間、2カ月に一度は大阪から熊本まで通い、その都度10日間あまり寝食を共にし稽古(けいこ)を受けた。盲目の山鹿さんには教本がないため、演奏をテープに録音し、一から楽譜に起こしての練習だ。現在、その旋律を受け継ぐ唯一の弟子と言われている。
 96年にはニューヨーク州立大学でコンピューター音楽とセッション、00年にはソプラノサックスの山本公成氏とのCDをリリースするなど、古典に限定しない演奏内容で幅広い活動を展開する。今出したい音色は「ほっとする」音。「風鈴の音にどきっとすること、ありますよね。そんな心にポンと入ってくる音を出したい」
 山鹿さんと稽古後、酒を酌み交わしていた際、「片山さんとわしとは芸人同士じゃ」。師匠がぽつりとつぶやいた。その言葉を励みに、これからも独自の音色を紡いでゆく。

文・国本よう子
写真・濱田あつ子

2005年8月24日/朝日新聞週間情報誌 あいあいAI 京都より抜粋