近況報告 98.春


京都の黒谷、永運院で「Lunatic2〜うつろひ〜」と題して演奏会を開いた5月17日は、雨上がりの初夏の陽気の日でした。涼しくなりかけた午後6時すぎ、まだ陽射しのなごりの中、僕は「壇ノ浦悲曲」を唄い始めました。二曲目の「隅田川」を唄い始めた頃、黄昏はじめた五月の宵は、「道成寺」の始まる頃には、すっかり暮れなずみ、灯篭の明かりに照らされた庭のなかで、山本公成氏の石笛、ソプラノサックスに僕の琵琶がからみ、佐野真紀子氏が静かに踊り始めました。
この演奏会を企画したとき、僕は、永運院の日本庭園を舞台に、夕暮れから夜へとうつろいゆく時の流れを楽しみたいと思っていました。その意図は十分かなえられたと思っています。とてもゆるやかな時の流れでした。
5月31日、三重県津市で行われたグループ真珠の演奏会に参加した後、一路名古屋の七ツ寺共同スタジオへ。友人のダンサー藤條虫丸氏が企画した8時間連続公演「巡礼」に終わりの2時間だけ参加。女優の火田詮子氏、シタールの南澤靖浩氏、尺八の福本卓道氏ほか10人ほどの、ダンサー、ミュージシャン、パフォーマーの人たちと、即興の楽しさを味わいました。
6月13日、三重県三瀬谷「語らいの里・噺野」での「ほたるコンサート」の日は、あいにくの大雨。会場が野外だったため中止になったのですが、せっかくだからとスタッフのためのコンサートということになりました。それでも、中止を知らずに来てくれたお客さん達が広いとは言えないログハウスにぎっしりと詰まって、その中でのコンサートに。
この日僕は、琵琶唄の「那須与一」と、川崎絵都夫作曲「せせらぎの詩」を演奏したのですが、この「せせらぎの詩」は尺八、琵琶、ヴァイオリン、チェロという編成で、ヴァイオリン、チェロの演奏者は、僕がむかし日本フィルハーモニー交響楽団でボーヤ(楽器運び他下働き)をしていた時のメンバーでした。10数年ぶりの再会でした。
残念ながら、蛍は飛びませんでした。
6月20日、福山駅から車で約30分、鞆の浦のとなりにある広島県沼隈町での「平家谷花しょうぶ園筑前琵琶と夢灯りフェスタ」へ。この平家谷は、その昔、屋島の合戦後平家の武将主従が隠れ住んだと言われる静かな谷間の地で、昼は、平清盛の弟、教盛の長男、平通盛をまつった通盛神社を正面に見る石舞台で、夜は、約1,000本のろうそくに照らされたしょうぶ園の特設ステージで演奏させてもらいました。菖蒲の花は終わりかけていましたが、人工の光も音もない空間は何とも言えない幻想的な雰囲気でした。
ここでも、蛍の時期は終わっていました。
6月21日、広島駅から車で約1時間の山県郡豊平町、中尾一弘氏宅へ。「シャローム・アストロ・パーク・とよひら」と名付けられたこの和風の家には、屋根瓦の替わりに円形のドームで覆われていて、その中には、205m/m屈折式天体望遠鏡が備え付けられています。星空観望と懐石料理が楽しめるこの家の、黒光りする木に囲まれた落ちついた広間で、昨日とはうって変わって、20人くらいのお客さんに、料理と琵琶を楽しんでもらいました。僕はこれくらいのゆったりとした空間が一番好きです。あいにくの曇り空で、星を見ることができなかったのが残念です。ちなみに、ここには、宿泊・食事・合宿・天文台・テニスコート・弓道場の施設があります。のんびりと楽しみたい所です。
6月24日は、もう10回目を数える京都北山、愛染倉での「沙羅の宴」。竹薮を通り抜けた高台にあり、京都市内を一望できる移築した飛騨の民家でのコンサートです。毎年ここで、平家物語から三曲づつ唄っています。今年はどこでも、花は早く終わっているんですが、ここの庭にある沙羅の木は、まだたくさんのつぼみを残していました。毎年の事ながら、終演後は残ってくれたお客さんと酒盛りです。今年は少し飲み過ぎました。
7月5日、南河内にある弘川寺へ。ここは、西行終焉の地です。「訪ね来つる 宿は木の葉に埋もれて 煙を立つる 弘川の里」という歌が、数年前、新潟の古い家の倉から発見されたそうです。西行が愛したのが当たり前と思うほど、寺の回りは桜の木が多く、里山倶楽部とボランティアの人たちが、午前中、山の下草刈りをしたあと、寺の本坊を借りてのコンサートでした。
以上が最近の僕の主な演奏活動です。

雨の多かった時期にもかかわらず、天気の悪かったのは、6月13日だけでした。ハレオトコに少し自信を持ちました。
7月24日、行き付けの飲み屋の皆さんと「天神祭奉納日本龍舟選手権大会」に出場します。22人で漕ぐボートレースです。ガンバロウと言いながら、お酒を飲んでいるのは、僕たちのチームぐらいかなと思っていますが、後のビールは最高です。
9月1〜4日、大阪森ノ宮・プラネットホールでの神原組公演「奈落浄土」には、うれしはずかし通算7回目の役者出演です。


今年の4月に、始めてこのページに案内を書いて、やっと今回2回目です。秋くらいには更新したいと思っていますが、どうなりますことやら・・・。
今年の2月から読み始めた「鬼平犯科帳」が20巻を越えてしまいました。最後まで読むのが、少しなごりおしい気持ちです。この後、「剣客商売」でも読んでみようかと思っています。どうぞ、すてきな夏をおすごしください。

                      それでは、またです。
                        文月 下弦の頃